金田一少年の事件簿「異人館ホテル殺人事件」の登場人物で、女優の万代鈴江は本当に優しい人物だったのか?を考察します。
*以下、「異人館ホテル殺人事件」のネタバレがそこらに散りばめられているので、未読の方は要注意*
万代鈴江とは
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版8巻24ページ)
金田一少年の事件簿「異人館ホテル殺人事件」の登場人物です。
「戦後最大のスター」と言われたほどの大女優で、有名劇団「劇団アフロディア」の劇団長を務めています。
最近は映画にはほとんど出ずに舞台を中心に活躍しており、本番前に一回台本を読むだけで台詞を全部暗記できてしまう特技を持つ、まさに天才女優です。
元々演劇部の美雪は万代の姿を見てすぐに大女優だとわかりましたが、金田一少年は「成金バーサン」と言って、彼女の存在すら知らない様子でした。
少なくとも、金田一少年が物心つくようになった10年ほど前には既に映画での仕事はほとんどしなくなっていたため、テレビに出る機会も激減していたのでしょう。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版8巻41ページ)
万代は第一の被害者となるために登場機会も圧倒的に少ないですが、その少ない登場シーンだけでも、劇団員に対して高圧的で横暴であることがわかります。
物語中で公演された劇の内容通りならば、万代は劇団員から嫌われているのだろうということも、容易に推測ができるほどの人物でした。
万代鈴江は本当に優しかった?
しかし、万代の門下生の文月花蓮は、
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版8巻41ページ)
「普段は優しい方」
と言っています。
物語中では万代が「優しい」と評されるような描写が一切なかったこともあり、そんな話を聞いた金田一少年も佐木くんも半信半疑といった心境だったはずです。
花蓮は後にも、
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版8巻80ページ)
と金田一少年に頼んでおり、なんだかんだ悪く言われることも多かった万代のことを慕っているように見えました。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版8巻58ページ)
同じ劇団員の市川玉三郎(人形使い“役”だと思いきや、プロもビックリのガチの腹話術師)は、万代が亡くなって悲しむ花蓮を「彼女は女優だ」と言って、暗に「悲しむフリをしている」と言いますが、彼がこう言う根拠は、
花蓮が普段何をしているか、劇団員の誰も知らない
という事実からです。
しかしその真実は、
花蓮が行方不明となっている双子の姉のために二重生活を送っていた
だけで、花蓮は疚しいことは何ひとつしていませんでした。
★「異人館ホテル殺人事件」犯人は、悲しいすれ違いによって自らを破滅に追い込むことに…。
【金田一少年の事件簿】「異人館ホテル殺人事件」典型的な努力型の犯人を破滅に追い込んだ原因とは?
つまり、市川の「花蓮は悲しむ演技をしている」と言うのは根拠に欠けており、やはり、
花蓮は本当に万代の死を悲しみ、彼女なりに万代を慕っていた
のだろうと推測できます。
では、花蓮の言う通り、本当に万代は普段は優しい人物だったのでしょうか?
作中描写では一切なし
既に申し上げたように、物語中では万代が「優しい」と評される描写は一切ありません。
ただしアニメでは、舞台稽古をしている花蓮の演技を万代が褒めているシーンがあり、ただ花蓮をいびっているだけの関係には確かに見えませんでした。
反面、アニメでは姉弟設定にされた辺見魔子(アニメでは市川魔子)と市川玉三郎は、幼い頃に両親を亡くして万代に引き取られ、万代の虐待で心に傷を負い、玉三郎は人形越しでないと話ができなくなったという追加設定がなされました。(腹話術師の過去に悲しい過去アリ…)
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版8巻87ページ)
魔子は原作では顔にアザがありますが、アニメでは顔のアザはありません。
この追加設定で万代の非道な人間性を窺い知れてしまい、結局、花蓮の言う「普段は優しい」人柄が、より一層に嘘くさく信ぴょう性に欠けてしまうことになりました。
花蓮の育った環境から紐解く
原作でもアニメでも、「優しい」と思わせる描写がなかった万代鈴江。
それに反して、「普段は優しい」と証言する文月花蓮。
アニメでは余計に万代の非情さ設定が追加され、しかし花蓮も本気で「万代は優しい」と思っていた。
となれば、
花蓮の「優しい」の基準が著しく低い
のではないでしょうか。
文月花蓮は7歳の時に両親が事故で亡くなり、双子の姉・蓮子とは別々の家に引き取られました。
蓮子も花蓮も決して幸福とは言えない生活で、そんな時に、唯一の身内である姉の蓮子が、家出先で同棲していた男を手にかけて、指名手配犯となってしまいます。
元々義理の親子関係が上手くいっていない所に、唯一の血縁者である姉がよりにもよって殺人で指名手配となってしまえば、花蓮の家族関係は更に溝が深まるばかりだったでしょう。
それまでだって平穏な家族ではなかったのに、姉の蓮子が指名手配されたことで、
より一層に花蓮に対しての風当たりが強くなった可能性が高い
です。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版8巻80ページ)
花蓮は自分を「孤児」だと言って、7歳から高校卒業頃まで過ごした家庭や義理の両親のことは、何も口にしていません。
むしろ、高校を出る頃に拾ってくれた万代のことを、「母親のように」想ってきたと言っているのです。
それだけ、引き取られた先の義理の家族との関係には悩まされたのだと推測できます。
幸福とは言えない家庭で育った花蓮だからこそ
そして、高校卒業頃に女優である万代鈴江の門下生になった花蓮。
幸福とは言えない家庭で10代の大半を過ごした彼女は、それまでの生活が過酷だっただけに、
万代のちょっとした発言や態度を「優しい」と感じていたのではないでしょうか。
また、明らかな八つ当たりなんかは逆に「慣れて」しまっていて、大抵のことは受け流せるようになってしまったとも考えられます。
花蓮が門下生となった頃には、既に麻薬の売人でもあった本物の赤髭のサンタクロースの上客でもあった万代でしょうから、接種後のハイな時は万代もご機嫌に花蓮に対しても優しく接していたかもしれません。
また、同じ劇団員の虹川が花蓮の内輪話=姉の蓮子が指名手配犯と知っているなら、当然ながら万代もその事実は知っているはずです。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版9巻63ページ)
(万代らも人には言えない違法行為をしているとはいえ、)表向きは「戦後最大のスター」だった大女優が率いる劇団に、近い身内に犯罪者を出している花蓮を門下生として迎えてくれたこと自体に、花蓮が恩義を感じていたとしてもおかしくありません。
7歳で実の両親が亡くなり、引き取られた養子?先でも家族の愛に恵まれず、離れ離れになった双子の姉は指名手配犯となれば、そんな自分でも門下生にしてくれた万代に対する好感度は、最初から高かったはずです。
また、何よりも花蓮には、姉の蓮子が戻って来た時のために、「女優」というポジションを用意しておきたかったという切ない願いがあったので、何があっても耐え抜けていたこともあるでしょう。
つまり、世間一般的な感覚では、
万代は決して「優しい」とは言えない人物
でしたが、
花蓮の生い立ちが不幸だったために、万代を「優しい」と思えていた
のです。
まとめ
「異人館ホテル殺人事件」の登場人物である万代鈴江は、麻薬の常習犯、かつ売人である赤髭のサンタクロースを亡き者にして、更に警察の不破鳴美=実は花蓮の姉の蓮子を脅迫するなど、世間一般的には決して「優しい」とは評せないどころか完全にアカン側の人物でしたが、「戦後最大のスター」と謳われるほどの自身の経歴、素人の花蓮を女優として育てた実績も含めれば、「女優」としては非常に才能ある人物でした。
そんな万代を唯一「優しい」と表現した文月花蓮は、
- 花蓮本人が義理の両親との間で不幸な生活を続け、
- 実の姉の蓮子が殺人で指名手配犯となったことで、余計に家族からの風当たりが強くなってしまったと推測でき、
- そんな時に自分の姉のことも知りながら有名劇団を率いる大女優・万代が門下生として拾ってくれたために、
- 万代に対して多大な恩義を感じており、更にそれまでの生活が過酷だったことも加わり、万代からどんなに八つ当たりをされても「優しい」と表現できた
のではないでしょうか。
何よりも、姉の蓮子のためにどんなに厳しい環境でも耐え抜こうという強い気持ちが根底にあったように感じます。
そう考えると、姉妹のすれ違いによって生じた結果が、より一層に悲しいです。
★「異人館ホテル殺人事件」は、大人になると泣けるお話のひとつです。
【金田一少年の事件簿】「異人館ホテル殺人事件」典型的な努力型の犯人を破滅に追い込んだ原因とは?
「異人館ホテル殺人事件」は、金田一少年シリーズ第七話です。
原作はシリアスでも外伝は完全ギャグ漫画です。
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