金田一少年の事件簿の「飛騨からくり屋敷殺人事件」で、犯人「首狩り武者」が予期していなかった最大の誤算について考察します。
*以下、最初から最後まで「飛騨からくり屋敷殺人事件」のネタバレ(犯人等)が全開なので、未読の方は要注意*
犯人「首狩り武者」とは
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版11巻124ページ)
正体は、巽紫乃。
巽家の次期当主予定だった巽征丸や、邪魔な共犯者を亡き者にしました。
(首狩り武者を名乗っておきながら、実際に紫乃自身が鎧を着たことはないです)
動機は、実子である巽龍之介に遺産を相続させるためです。
個人的には、自分をいびり通した巽綾子への復讐、という意味も含まれていると思っています。
18年前、お金もなく男にも逃げられ絶望している最中に男児を出産した紫乃が、自分の子(龍之介)と、学生時代にいじめ抜かれ恨みのあった巽綾子が出産した子(征丸)を交換したことが、全ての始まりです。
その後、何の因果か連れ子の征丸(巽綾子の実子)と共に綾子が嫁いだ奥飛騨の旧家、巽家の後妻におさまった紫乃は、夫の死後に征丸が遺産を相続することが決定した時、龍之介(紫乃の実子)を見下す征丸の顔が自分をいじめ抜いた巽綾子の顔を重なったことで、綾子への憎しみが蘇ってしまいます。
結果、実子である龍之介に全ての遺産を相続させるため、18年間育てた征丸を無慈悲に手にかけるという、獣に変貌してしまいました。
★「金田一少年の殺人」犯人 見えざる敵も、子を思う親の愛情が犯罪者へと変えさせています。
【金田一少年の事件簿】「金田一少年の殺人」犯人、見えざる敵が見えざる敵になった理由犯人の最大の誤算とは
今回の事件の犯人「首狩り武者」には、共犯者がいました。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版11巻10ページ)
共犯者の仙田猿彦は、巽家の使用人。
18年前に紫乃と関係を持ったことのある、巽龍之介の実父でもあります。
同じ使用人仲間からも「ズル賢い」所があったと言われていた猿彦、巽家の使用人になったのも、どこからか紫乃が名家である巽家の後妻になったことを聞きつけ、脅迫することが目的でした。
紫乃も名家の後妻になった手前、過去に猿彦と関係を持っていたという事実を隠しておきたかったのでしょう、二年間もお金を渡し続けていました。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版12巻62ページ)
過去に身を任せた紫乃ですら認める、クズ男。それが仙田猿彦という男でした。
正直、金田一少年シリーズではキングオブクズやらゲス中のゲスがたくさん登場するので、猿彦のクズさはまだまだ序の口と思われてしまいがちではありますが、一般的には普通にクズと言われても仕方ない男です。
★「飛騨からくり屋敷殺人事件」共犯者の猿彦を更に深掘りしてみた結果…。
【金田一少年の事件簿】「飛騨からくり屋敷殺人事件」仙田猿彦を地味に深掘りしてみたら…
とはいえ、紫乃の誤算は、
共犯にした猿彦が色々やらかした
ことでした。
元軽業師という経歴を持つ猿彦のために用意した崖を渡る密室脱出トリックも、実は高所恐怖症だったために無理だったとソッコーで金田一少年に見破られます。
(船津紳平/さとうふみや/金成陽三郎/天樹征丸、講談社「犯人たちの事件簿」5巻82ページ)
スピンオフギャグ漫画とはいえ、この時の紫乃の心境はまさにコレだったのではないでしょうか。
ズル賢い猿彦ならば、自分の弱点をわざわざ脅迫相手には言わないでしょうからね。
こうして密室トリックが無理だったと早々に結論付けられ、更に次は猿彦が美雪をさらった所を金田一少年に尾行され、狭い一本道の洞窟で仕方なく柴乃が金田一少年を襲撃したという事実から、犯人が二人いたことも指摘されてしまいます。
(船津紳平/さとうふみや/金成陽三郎/天樹征丸、講談社「犯人たちの事件簿」5巻84ページ)
結果的に、猿彦を共犯にしたことで金田一少年に多大な隙を与えることになってしまった紫乃。
紫乃が疑われる直接的なきっかけは猟銃に鉛が詰められていたことですが、猿彦を共犯にしたために密室トリックの謎を暴かれ、犯人が複数いたことがバレてしまったことは確かです。
実子の龍之介を巽家の財産を相続させる、という目的を共通させるのが猿彦しかいなかったにせよ、
猿彦を共犯に選んだこと
は、紫乃の誤算のひとつでした。
…しかし、猿彦を共犯にするより前に、既に紫乃には最大の誤算が生まれていたのです。
先代が征丸と養子縁組
猿彦を共犯にしたことよりも、紫乃にとっての最大の誤算。
それは、
先代の蔵之介が連れ子の征丸を養子縁組したこと
です。
そもそも、巽家の遺産相続争いは、紫乃が巽家の使用人になったことが始まりでした。
18年前に赤子を交換した紫乃が、実子である龍之介会いたさに巽家に入り、先妻である綾子が亡くなった後に先代に見初められて後妻に入ります。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版12巻47ページ)
先妻の巽綾子が亡くなったのが8年前、綾子と紫乃は同級生なので、29歳の若さで亡くなったことになります。
先代の蔵之介が亡くなったのが昨年であり、猿彦が紫乃に脅迫を始めたのが2年前なので、紫乃が後妻におさまったのは6~7年から3~4年ほど前の間と推測できます。
そして、この紫乃の正式の嫁入りにプラスして、蔵之介は紫乃の連れ子である征丸と養子縁組をしました。
当時の紫乃が何を思ったかはわかりませんが、第三者から見ると、
この縁組自体が征丸に巽家の当主になる権利を与えたことにもなり、紫乃の最大の誤算になったことは間違いない
です。
紫乃の望みは、征丸と巽家を繋ぐことではなかったからです。
★「飛騨からくり屋敷殺人事件」巽龍之介と征丸の義兄弟の秘密を考察した記事は、こちらから。
【金田一少年の事件簿】「飛騨からくり屋敷殺人事件」巽龍之介と巽征丸、義兄弟の出生の秘密に迫る! 征丸は本当に双子だったのか?犯人の望みとは
紫乃は、
実子の龍之介の側にいられれば良かっただけ
でした。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版12巻56ページ)
いくら資産家の息子として幸せに育っているとはいっても、やはり自分の子を一目見たい、見守りたい、側にいたい、我が子が生き甲斐だったから、我慢出来ずに高校時代に自分をいじめ抜いた女の家に、わざわざ使用人として働き出したのです。
嬰児交換した罪は重いですが、龍之介に向ける紫乃の母親としての愛情は、本物だったのではないでしょうか。
使用人になった時点では、連れ子である征丸をどうにかしようなんて微塵も考えていなかったでしょうし、実際に紫乃は、
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版12巻60ページ)
先妻の綾子と征丸が顔を重なった瞬間に「人の情をかなぐり捨てて」と言っており、少なくとも先代蔵之介の遺言が公表されるまでは、これまで育ててきた征丸に対し「人の情」があったことが窺えます。
新生児の頃から女一人で征丸を育ててきたのです、憎い女の子どもとはいえ、おそらく征丸に対して多少なりとも母親の情が生まれていたのだろう、と思います。
とはいえ、紫乃はやはり実子の龍之介が巽家当主となるのを望んでいたのだから、正式に巽家の妻になった時ですら、征丸を巽家と縁づかせようなんて発想はなかったでしょう。
龍之介は最初から紫乃を「巽家の人間」とは認めずに反発し、紫乃の育ての子だった征丸とも仲良くできない様子を見ていれば、親として征丸に情が湧いていたとしても、「征丸と龍之介を兄弟にしたいわ♪」なんて能天気に考えられるはずがありません。
とにかく紫乃は実子である龍之介の側にいられれば良かったのであって、更に言えば、
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版12巻55ページ)
自分の子を育てさせることが、先代当主の妻である綾子に対する復讐でもあったと語った紫乃。
そんな彼女が、綾子の実子である征丸を正式に巽家に戻す行為になる養子縁組という手続きを、自ら進んで行おうなんて考えるでしょうか?
いくら恨みのあった綾子自身が亡くなった後とはいえ、綾子の実子である征丸を正式に巽家の息子に戻すのは、かつて紫乃が嬰児交換までした意義がなくなることにもなるので、征丸の養子縁組は紫乃から申し出たとは考えにくいです。
つまり、
征丸を養子縁組にする意思を見せたのは、先代の蔵之介
だったということになります。
紫乃にしてみれば、表向きは巽家と関係のない子を養子縁組して貰うことに驚いたことでしょう。
まさか今後家督争いが起こるなんて考えなかったでしょうから、紫乃も、征丸の母として情が湧いていたなら蔵之介の縁組の申し入れに純粋に喜び、当時10代前半だった思春期の征丸のことを想っての縁組であるならば尚更、驚きはしても名家の当主である蔵之介の懐の大きさに感謝をしただけだったかもしれません。
征丸が養子縁組をしても龍之介の側にいられることは変わりないですし、なんといっても紫乃は(どこかで不安はあったかもしれませんが)、
いずれ龍之介が家督を継ぐと信じていた
のですから。
それを壊したのは、征丸に巽家当主になる権利を与え、養子縁組を申し入れたであろう先代蔵之介でした。
先代と征丸が養子縁組してしまったことが結果的に龍之介の立場を危うくしてしまい、まさに紫乃の最大の誤算だったのです。
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征丸と巽家を縁づかせたのが紫乃ではなく、巽家先代当主の蔵之介だと考えると、新たに謎が生まれます。
それはもちろん、
なぜ蔵之介は征丸と養子縁組したのか
という点です。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版11巻17ページ)
巽家先代当主、巽蔵之介です。
先妻の綾子が8年前に29歳の若さで亡くなった割に、昨年亡くなったはずの蔵之介の外見がそこそこのご高齢に見えるのは、晩年に首狩り武者の亡霊に悩んで一気に老け込んだだけなのか、それとも単純に年の離れた夫婦だったのか、ここはちょっと不明です。
では、蔵之介はどのような意図があって征丸を養子にしたのでしょうか?
征丸が優秀だったから?
まず推測できるのが、
単純に征丸が優秀だったから
という説です。
巽家は家督を継げるのが男子に限られており、蔵之介が亡くなる前の時点でその権利があるのは、長男の龍之介、次男の隼人、そして紫乃の連れ子である征丸。
この三人の中で、蔵之介が純粋に才覚ありと認めたのが征丸だったのであれば、頷ける話です。
龍之介は表向きは正統な血筋の長男とはいえ、まだ子どもである12歳の時点で父に可愛がられてばかりいる弟の隼人を疎ましく思い、祝い酒に毒を仕込むほどの人間性の持ち主です。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版12巻85ページ)
使用人の環も否定しないほど、龍之介は「スサまじい」綾子の性格とよく似ていたのでしょう、綾子の実子である次男の隼人が言っているのだから、かなり信憑性があります。
紫乃曰く綾子は「自分中心でないと気が済まない質」、更に学生時代から気に食わないクラスメイトをいじめ抜き、巽家の妻になってからも使用人をいびり通すほどの性根がひねくれた女性です。
龍之介も、環曰く「一度カンシャクを起こすと手がつけられない」性格で、蔵之介から見ても、息子の龍之介が激情型である妻の綾子の血筋を一番に引いていると思っていたとしても不思議ではありません。
(幼い頃からワガママな龍之介を見ていたから、次男の隼人を可愛がっていた可能性もあります)
隼人は毒の一件からおかしくなったフリをすることで自分の身を守っており、すると龍之介と征丸しか家督を継げる者がおらず、二人を比べた結果、紫乃が愛情を持って?育てたのか母親想いの青年に育っている連れ子の征丸を後継に選んだ、ということですね。
しかし、この説は400年続く巽家のしきたりを踏まえると、少々疑問が残ります。
血筋を重視する巽家
巽家は関ヶ原の戦いの頃である400年ほど前から代々続く名家であり、
当主は自分の息子の中から才覚ありと認めた者を次代当主として指名するしきたり
を守ってきました。
「自分の息子」という文言がありますが、これは実子はもちろん、征丸を指名できていることから養子でも可能です。
実子である息子がいなければ、遠縁から男子を養子に入れて息子にすればいいだけの話ということでしょう。
しかし、重要なのは「自分の息子の中から次代当主を選ぶ」という部分だけではありません。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版12巻82ページ)
巽家と因縁のある柊家の子孫である冬木医師は、18年前に紫乃の嬰児交換を目撃していながら黙認していました。
巽家と関係のない男子がいずれ家督を継ぐことで巽家の血筋が途絶え、その事実は巽家に恨みのある柊家にとっては復讐になったと話す金田一少年。
(彼の言葉が正しかったのか、その後冬木医師は自分の手を見つめ一人涙を流します)
ここで大事なのは、
「巽家の血筋を途絶えさせるのが、復讐となる」
という点です。
他人であれど、才覚のある男子を養子に入れて巽の名前を残しているだけであれば、紫乃が嬰児交換をしていても柊家にとってはなんの復讐にもなりません。
わざわざ閉鎖的な村にまで戻って来て自分の復讐計画を見届けようと思うほど、冬木医師は巽家の血筋が途絶える瞬間をその目で見たかったのです。
つまり、
巽家は血筋を重視していた家柄
ということになります。
当主の元に産まれる子どもが全員男子であることは、現実的に妾制度がなくなる近年になれば余計に難しかったでしょうし、実子に息子がいなければ巽家の血を引く親戚の男子を養子に入れていた、ということだったのでしょう。
家督を継ぐのが養子でも可能なのは、あくまで巽家の血筋である男子だからであり、赤の他人でも問題ないということではなかったのです。
蔵之介は全てを知っていた
この事実を踏まえると、先代の蔵之介が紫乃の連れ子である征丸と養子縁組にした、という意味がわかってきます。
おそらく蔵之介は、
征丸が自分の子どもであると知っていた
のです。
血筋を重視する巽家が、他人である後妻の連れ子を簡単に養子縁組にするとは考えにくいです。
養子縁組とは法律的に真の親子になるという意味であり、財産を相続できる権利も発生する、決して軽い気持ちでするものではない手続きです。
名家であり財産のある資産家の巽家こそ、「他人と養子縁組する」という意味を理解していないとは思えません。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版11巻20ページ)
だからこそ、「表向き」正当な血筋である龍之介はじめ親戚?の方々も、征丸が次代当主だと知って驚愕しているのです。
巽家と因縁のある柊家が「巽家が血筋を重視している家柄」と勝手に思い込んでいるだけで、実は巽家は血筋なんて重視していないのだとすれば、龍之介もここまで驚くこともなく、むしろ血筋関係なく優秀な男子のみという条件で次代当主が決まるなら、龍之介だって最後まで胡坐をかいていられません。
仮に、蔵之介が400年続いた古いしきたりに風穴に開けてもいいと考えつつ、
「真実を知らないまま、純粋に才覚ありと認めたのが征丸だった」
として連れ子の征丸を次代当主としたなら、龍之介に対してのフォローが皆無過ぎて笑えません。
龍之介は巽家の正当な後継者として信じて疑わず、周囲も長男である龍之介が指名されると思っていた所で他人の征丸が想定外に指名されれば、龍之介がどれだけ荒れるか、17年間父親をしていた蔵之介なら容易に想像出来たでしょう。
それでも、「(実子と思っている)龍之介では巽家当主は務まらん!」と考えたなら、晩年に合わせ扉の間なんかにこもっていないで最期に父親として龍之介をフォローするべきでしたし、横暴とはいえ、実子(と思っている)龍之介のメンタル面を一切考慮しない、遺言発表の場で現実を突き付けるという残酷な方法を、なぜ取ったのか…。
その時点で、
本当に蔵之介は龍之介の父である自覚があったのか、
甚だ疑問です。
更に言えば、蔵之介の立場で汚い大人の世界を表現するなら、妻を亡くした蔵之介はいちいち後妻を迎える必要もありませんでした。
使用人だった紫乃と深い関係になっても、紫乃からしつこく頼まれない限りは「正妻」にしなければいいだけの話で、その方が紫乃の連れ子である征丸の処遇も考えなくても済む、男としては手近に女がいる一番楽な方法です。
しかし、紫乃は蔵之介に「見初められて」後妻になったと言っており、紫乃から「妻にして欲しい」と願い出たわけではないことが窺えます。
これは、物心ついた頃から巽家で使用人をしている環が、紫乃の悪口を言っていないことから真実だろうと思われます。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版11巻95ページ)
巽家当主と深い関係になっている使用人の紫乃が「妻にしろ」と言って後妻におさまっているなら、環も言葉を選びながらでも、もう少し本当のことを金田一少年たちに話しているでしょう。
おそらく本当に、先代蔵之介が紫乃を「見初めて」、妻にしたのです。
なぜ蔵之介は真実を知ることができたのか
蔵之介は征丸を実子だと知っていた。
だからこそ、先妻の綾子が亡くなった後に紫乃を後妻に迎え、征丸を養子にしたとするなら、
なぜ蔵之介は真実を知っていたのか
という疑問がまた生まれます。
実の親子ではない証明としては血液型が一番わかりやすいですが、そもそも血液型が夫婦の子で有り得ないものだったなら、夫の立場ではまず一番はじめに妻の不貞や病院での手違いを疑うでしょうから、「仮に龍之介の血液型が蔵之介と綾子の血液型では有り得ないもの」だったとしたら、蔵之介も征丸云々よりも先にやることがあったはずです。
つまり、龍之介の血液型は一見すると蔵之介と綾子の子でも有り得る血液型であり、更に綾子の性格を一番に引き継いだと家族からも言われる龍之介を、
「自分の子ではない…?」
と蔵之介が疑うことはなかったと考えられます。
蔵之介は物語が始まる前に亡くなっているので推測しか出来ませんが、血液型以外で考えられる説を挙げていきます。
綾子に似ていた
ここは単純に、
征丸のふとした表情が蔵之介や先妻の綾子に似ていると気付き、疑問を抱いた
ということが、大いに有り得ます。
全く似ていないと思っていた親子や兄弟姉妹でも、横を向いた表情とかなんでもない時の表情がソックリ、ということは、血縁関係のある人間同士ならばよく見られる現象です。
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版12巻58ページ)
紫乃は最悪のタイミングで征丸と綾子の顔がソックリであると気付かされましたが、蔵之介にも似たような経験があったとしても何ら不思議ではありません。
(引用画像は昔の単行本版なので、台詞に誤字があります)
住み込みで働いていた以上、紫乃は征丸を巽家に連れて働いていたでしょうから、先妻の綾子が存命中から、蔵之介も征丸のことは見知っていたはずです。
そこで、
なぜか使用人の息子と妻の顔が似ている
と感じたことがあったのです。
もちろん、「似ているな?」という感覚だけで、すぐに「全てお見通しだ!」ということにはならなかったでしょうが、征丸の存在に疑問を抱くきっかけになった可能性は充分にあります。
複数の黒い疑惑が重なった
更に蔵之介は、過去に紫乃を見かけていた可能性が高いです。
18年前、紫乃は出産間近に病院を訪れ、その時に偶然にも同時期に出産予定だった綾子を見かけてしまいますが、
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版12巻52ページ)
巽家の使用人の方が言う「旦那様」とは、もちろん綾子の夫の蔵之介のことです。
紫乃がいた病院に蔵之介も後から訪れていたということは、
蔵之介が紫乃を見かけていた可能性が高い
です。
もちろん、妻が通院する病院に同じ妊婦さんがいたからといって、蔵之介の記憶に紫乃が強く残ることはなかったでしょうが、上記で述べたように、後に紫乃の連れ子である征丸と綾子が似ている、という事実に気付いた時、綾子が使用人だった紫乃を異様にいびり続けていたこと、龍之介を見る紫乃の視線など、紫乃と綾子に関する複数の事実が重なったことで、
蔵之介の中で黒い疑惑がどんどん大きくなっていった
のではないでしょうか。
資産家であるなら紫乃の経歴も簡単に調べられたはずで、紫乃がかつて妻である綾子と同じ高校に通い、子どもを出産した病院も綾子の初産の時と同じ病院で、しかも同時期に男児を出産していることも調べがついたはずです。
そうやって事実を並べていくうちに、それこそ血液型などで、
龍之介と征丸の真実に辿り着いてしまった
ということは、充分に考えられます。
しかも、自分の子と紫乃の子が入れ替わっている事実までも推測出来てしまったのだとしたら、蔵之介は紫乃が故意に子どもを交換をしたのでは?と疑ったはずですが、
(さとうふみや/金成陽三郎、講談社「金田一少年の事件簿」単行本版11巻73ページ)
晩年は、伝説の「悪霊」を恐れて何のからくりもない合わせ扉の間にこもっていたという蔵之介。
疑問を抱いた時点で、本来であれば当時使用人だった紫乃を問いただしても良かったのに、綾子が亡くなった後に後妻にした挙句、最期は遺言書だけを残して紫乃にも何も言わずに亡くなります。
先妻の綾子が紫乃をいびり通していたことに同情していた部分も大いに関係していたとは思いますが、蔵之介の晩年含む一連の行動は、「実は何も真実を知らなかった」という風には感じられず、かと言って「真実を知った上での紫乃に対する復讐」というよりは、
巽家の血筋を途絶えさせられようとした事実に何か得体の知れない恐怖を感じながら、巽家を陥れようとした「悪霊」の存在を本気で信じて、
晩年は合わせ扉の間にこもっていたのではないか、と感じてしまいます。
まとめ
「飛騨からくり屋敷殺人事件」犯人 首狩り武者が予期していなかった誤算から、巽家先代当主蔵之介が征丸を養子縁組した謎について、考察してみました。
首狩り武者こと巽紫乃の誤算は、巽家の家督相続争いのきっかけでもある先代蔵之介が征丸を養子縁組したことです。
血筋を重視する巽家は、表向き他人である征丸を次代当主として指名するとは考えにくく、蔵之介は征丸を実子と知っていて養子縁組したと考えられます。
紫乃の口から夫だった蔵之介の話題が出ることはほとんどありませんでしたが、もしかしたら、征丸が次代当主と指名された時から、綾子への恨みと同時に、夫である蔵之介の真意にも気付いてしまったのだとすれば、
「あたしは結局この運命の泥沼から抜け出せなかった」
と言う紫乃の最期の言葉が、非常に痛々しく感じてしまいました。
★「飛騨からくり屋敷殺人事件」巽龍之介と征丸の出生を考察した記事は、こちらから。
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アニメではやはり、「声優さんの演技が素晴らしい!」の一言に尽きますね。
特に武藤礼子さん演じる巽紫乃の最期のシーンは、親になると本気で泣けてくる切ないシーンです。
漫画では味わえない、声が入ったアニメの金田一少年シリーズもチェキラ!です!
*本ページの情報は2022年6月時点のものです。最新の配信状況はU-NEXTサイトにてご確認ください*
「飛騨からくり屋敷殺人事件」は、原作では金田一少年シリーズ第9話です。
犯人視点の外伝ギャグ漫画も最高です。
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