【百人一首】現代風訳から作者紹介・覚え方まで! 36~40番歌

 

続けて、36~40番歌の紹介です。

 

36.清原深養父

【読み】

なつのよは まだよひながら あけぬるを
くものいづこに つきやどるらむ

 

詠み人は清原深養父(きよはらのふかやぶ)

夏の夜明け方に月への思いを詠んだ歌です。

歌の意味

【現代語訳】

「短い夏の夜、まだ宵のうちだと思っていたのに、もう明け方になってしまった。(こんなに夜が明けるのが早くては月もまだ空に残っているだろうに)、月は今、雲のどこかで宿をとっているのだろうか」

 

【わかりやすい現代風訳】

「ぼ~っとしてたらもう明け方や。こんなに短いと月もどっか行く暇なんてないから、雲のどこかで休んでるのかも?」

言葉の意味

【夏の夜は】

「夏の夜」は、秋の「夜長」に対して「短夜」となる。

古典では、陰暦の四・五・六月が夏。

【まだ宵ながら】

まだ宵のうちだと思っている間に、の意。

「宵」は、暗くなってからしばらくの間、現代の午後8時頃をさす。

【明けぬるを】

夜が明けてしまったが、の意。

【雲のいづこに】

雲のどこに、の意。

【月宿るらむ】

月は宿をとっているのだろうか、の意。

「月宿る」は擬人法。

詠み人紹介

36番歌の詠み人は、清原深養父でした。

平安時代中期の代表的な歌人で、27番歌の中納言兼輔(藤原兼輔)や29番歌の凡河内躬恒、35番歌の紀貫之らと交流があり、琴の名人でもありました。

清原家は代々、歌と学問の家柄で、「後撰和歌集」の撰者である42番歌の清原元輔の祖父、「枕草子」の作者で有名な62番歌の清少納言の曽祖父に当たります。

深養父は、内気で純情な人物だったと言われています。

豆知識

昔の人は、日暮れから夜明けまでを、大体、夕(ゆうべ)-宵ー夜ー暁ー朝 くらいに分けて表現しています。

覚え方

【決まり字】

のよは まだよひながら あけぬるを

くもいづこに つきやどるらむ

 

【覚え方・語呂合わせ】

(夏) 雲どこに月が!?

 

37.文屋朝康

【読み】

しらつゆに かぜのふきしく あきののは
つらぬきとめぬ たまぞちりける

 

詠み人は文屋朝康(ふんやのあさやす)

露を真珠にたとえて詠んだ歌です。

歌の意味

【現代語訳】

「葉の上の白露にしきりに風が吹き寄せる秋の野原は、糸を通していない真珠がきらきらと零れ落ちているようだ」

 

【わかりやすい現代風訳】

「白露が、まるで真珠のようや~」

言葉の意味

【白露に】

「白露」は、草の葉におく、白く光っている露のこと。

【風のふきしく 秋の野は】

風がしきりに吹いている秋の野は、の意。

ここでいう「風」とは嵐であり、野分(秋に吹く激しい風)のこと。現代の台風より弱いもの。

【つらぬきとめぬ】

糸(紐)を通して、繋ぎとめない、の意。

【玉ぞ散りける】

白玉が散ることであるよ、の意。

白露を玉に見立てた表現で、「玉」は、ここでは白玉・真珠をさす。

詠み人紹介

37番歌の詠み人は、文屋朝康でした。

父は六歌仙に選ばれている22番歌の文屋康秀です。

 

朝康は平安時代に盛んに行われていた有名な歌合せに出席し、素晴らしい歌を詠んだ評判の歌人だったと言われています。

しかし、朝康の詠んだ歌は現在、三首しか残されておらず、詳しい経歴はわかっていません。

豆知識

露には形容が多く、白く輝くのを「白露・露の玉」と言います。

覚え方

【決まり字】

つゆに かぜのふきしく あきののは

らぬきとめぬ たまぞちりける

 

【覚え方・語呂合わせ】

たま(白玉)に らぬけ串

 

38.右近

【読み】

わすらるる みをばおもはず ちかひてし
ひとのいのちの をしくもあるかな

 

詠み人は右近(うこん)

「忘れられてもいい、ただあなたがいなくなることが悲しい」と詠んだ歌です。

歌の意味

【現代語訳】

「あなたに忘れられる私のことはいいのです。ただ、私への愛を誓ったあなたが、神の怒りに触れて命を落とすことになるでしょう。それが、悔しくて悲しいのです」

 

【わかりやすい現代風訳】

「いや、別にフラれた私のことはどうだってええんやけど、あれだけ私を好き好き愛してるって神に誓ってたあんたはな、きっともうアカンで? ヤバない?」

言葉の意味

【忘らるる】

恋をしている相手に忘れられる(捨てられる)、の意。

【身をば思はず】

私の身はどんなだろうと、なんとも思いません。どうだっていいのです、の意。

【ちかひてし】

あなた(相手の男)が、いつまでも私(作者)を愛するとかつて誓った、の意。

【人の命の】

あなたの命が、の意。

【惜しくもあるかな】

惜しまれてならない、の意。

「惜しく」は、「神仏の罰で命を落とすのが惜しい」の意味。

詠み人紹介

38番歌の詠み人は、右近でした。

醍醐天皇(第60代天皇)のお后・穏子(おんし)に仕えた女官で、本名はわかっていませんが、父の藤原季縄(すえなわ)が右近衛少将という役職だったため、右近と呼ばれています。

余談ですが、右近の父の季縄は、三十六歌仙にも選ばれている女流歌人、19番歌の伊勢と親交があったと言われています。

 

さて、神仏に対する信仰が厚かった当時、神に誓ったことは絶対で、破れば罰を受け、命を失うと信じられていました。

右近の恋人も、右近との愛を神に誓ったのでしょう。

しかし、その恋人が他の女性に心を移しているとの噂を聞いてしまい、右近はこの歌を詠んだのです。

心変わりした恋人への皮肉を込めた歌なのか、恋人への気持ちを断ち切れない思いを詠んだのか、どちらとも取れる歌ですね。

私は前者かと思いますが(笑)

 

ちなみに、右近の恋仲だったと言われているのは、43番歌でも紹介する藤原敦忠

24番歌の菅家(菅原道真)を陥れ太宰府に流れさせた、藤原時平の子で、26番歌・貞信公(藤原忠平)の甥に当たります。

本当に罰が当たったかはわかりませんが、敦忠も父同様に、38歳という若さで亡くなりました。

豆知識

右近の歌は、男性に捨てられる立場で詠んだものが多く、恋多き女性でもあります。

敦忠の他に、20番歌の元良親王や44番歌の中納言朝忠(藤原朝忠)源順らとも恋愛関係にあったと言われています。

覚え方

【決まり字】

わするる みをばおもはず ちかひてし

ひといのちの をしくもあるかな

 

【覚え方・語呂合わせ】

るる 人

 

39.参議等

【読み】

あさぢふの をののしのはら しのぶれど
あまりてなどか ひとのこひしき

 

詠み人は参議等(さんぎひとし)

「もう堪えきれない」と秘密の恋を詠んだ歌です。

歌の意味

【現代語訳】

「浅茅生の生えた小野の篠原、その「しの」という言葉ではないが、私は忍びに忍んできたのです。でも、今はもう堪えきれない。どうしてこんなに、あなたが恋しいのでしょう」

 

【わかりやすい現代風訳】

「もう我慢できん、どうしてこんなにあんたが好きなんや!」

言葉の意味

【浅茅生の】

「浅茅生」は、まばらに低い茅が生えているところ。

【小野の篠原】

「小野」の「小」は接頭語。

「篠原」は、細い竹の生えている原。

【しのぶれど】

恋しい思いをじっとおさえて、我慢しているのであるが、の意。

「しのぶ」は、我慢すること、堪えること。派手な行動に出ることを謹んで、じっと堪えているという意味。

【あまりて】

「しのぶにあまりて」の意味で、堪えきれないこと。

【などか 人の恋しき】

どうしてあなたが恋しいのか、の意。

「人」は、恋する相手。

詠み人紹介

39番歌の詠み人は、参議等でした。

本名を源等(みなもとのひとし)と言い、嵯峨天皇(第52代天皇)の曾孫ですが、祖父の代で臣下に下り、源の姓を名乗るようになりました。

 

百人一首のこの歌は本歌取りといって、昔に作られた古歌を自分流に作り替える技法を使っています。

当時、本歌取りはとても流行っていました。

参議等が参考にした古歌は、

「浅茅生の 小野の篠原 しのぶとも

 人知るらめや いふ人なしに」

(私がこんなに激しくあの人を恋い慕っていることを、あの人は知っているのかしら(いいえ、誰も知らないわ)。

誰も伝えてくれる人はいないのだもの」

というものです。

豆知識

「臣下に下る」とは、皇族が、天子に仕える家来になることを言います。

覚え方

【決まり字】

あさふの をののしのはら しのぶれど

りてなどか ひとのこひしき

 

【覚え方・語呂合わせ】

ゃん あり時間がない

 

40.平兼盛

【読み】

しのぶれど いろにいでにけり わがこひは
ものやおもふと ひとのとふまで

 

詠み人は平兼盛(たいらのかねもり)

「もう内緒にできない」と詠んだ恋の歌です。

歌の意味

【現代語訳】

「あの人を思う気持ちを誰にも知られないように、じっと包み隠していたけれど、とうとう隠し切れず、誰にそんな恋しているのかと、人から問われるほどになってしまいました」

 

【わかりやすい現代風訳】

「こっそり片思いしていたけど、結局バレてもーた」

言葉の意味

【しのぶれど】

包み隠しているけれど、の意。

【色に出でにけり】

顔色や様子に出てしまったことだ、の意。

「色」は、「顔色」「表情」をさす。

【わが恋は】

私の恋は、の意。

【物や思ふと】

恋の物思いをしているのかと、の意。

恋に悩むことを言っている。

【人の問ふまで】

人が尋ねる、それほどまでに、の意。

詠み人紹介

40番歌の詠み人は、平兼盛でした。

光孝天皇(第58代天皇)の子孫に当たり、三十六歌仙にも選ばれている、後撰集時代の代表的歌人です。

 

兼盛の「しのぶれど…」の歌は、映画「名探偵コナン から紅の恋歌」にも出てきたので、百人一首に興味がない方でも覚えているかもしれませんね。

そもそもこの歌は、村上天皇(第62代天皇)によって行われた歌合せの場、天徳内裏歌合で披露された歌です。

歌合とは、右方と左方に分かれた人が一首ずつ歌を詠み合い、歌の良しあしを審判が判定する、歌のコンクールみたいなものです。

当時、歌合に出ることは、現代で言えば野球のオールスター戦に選ばれるくらい、とても名誉なことでした。

兼盛の相手は、41番歌の壬生忠見

30番歌の壬生忠岑の子で、こちらも三十六歌仙に選ばれるほどの優れた歌人でした。

この歌合で、兼盛が「恋」をお題に詠んだのが、「しのぶれど…」でした。

双方の歌が出た後、審判の左大臣藤原実頼は、どちらを勝たせるかとても迷いました。

副審に意見を聞いてみても、副審もやはり双方優れた歌だったために困っていたところ、天皇が「しのぶれど…」と兼盛の歌を口ずさんだので、兼盛を勝者としました。

兼盛は、自分の歌が勝ちと聞いて躍り上がって喜び、先に帰ってしまったと言われています。

 

しかし、審判の藤原実頼は、この判定を後のちまで疑問に思っていたようです。

豆知識

優れた作品は中々優劣がつけられない例として、この天徳内裏歌合事件はとても有名です。

覚え方

【決まり字】

ぶれど いろにいでにけり わがこひは

やおもふと ひとのとふまで

 

【覚え方・語呂合わせ】

ぶ もやで恋心

 

 

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31~35番歌は古今集時代の名人ばかりです。

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41~45番歌も恋歌ばかりです。

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